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神戸地方裁判所 昭和31年(行)19号 判決

神戸市兵庫区上沢通一丁目九番地

原告

金倉啓祐

神戸市兵庫区水木通二丁目五番地

被告

兵庫税務署長

佐々木新次郎

右指定代理人

大蔵事務官

沢田安彦

木村傑

中村匡男

日隈豊

木下広雄

新居義則

右当事者間の昭和三十一年(行)第一九号更正決定取消請求訴訟事件について、当裁判所は昭和三十二年八月三十一日終結した口頭弁論に基き、つぎのとおり判決する。

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対し昭和三十年四月十九日付(訴状請求の趣旨中昭和三十一年三月三十日とあるは上記の誤記と認める)をもつてなした昭和二十九年度の総所得金額を四八五、〇〇〇円、所得税額を九二、五〇〇円とする更正決定はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

その請求原因として「原告は神戸市内において、旅館業並びにパチンコ遊技場を経営していたものであるが、右事業から生ずる昭和二十九年度(昭和二十九年一月一日より同年十二月三十一日まで)の所得について、被告は原告の総所得金額を四〇〇、〇〇〇円、所得税額を六一、〇五〇円とする確定申告に対して昭和三十年四月十九日付をもつて総所得金額を四八五、〇〇〇円所得税額を九二、五〇〇円、過少申告加算税を一、五五〇円とする更正決定をなし、その通知はその頃原告に到達したので、原告はこれを不服として同年四月三十日被告に対し再調査を請求したところ、被告は同年六月十三日付で請求は理由がないとして棄却の決定をなし、その通知は同月十六日原告に到達した。そこで原告はこれを不服として更に同年六月二十七日大阪国税局長に対し審査の請求をしたところ、右国税局長は昭和三十一年三月三十日付をもつて原告の請求を理由なしとして棄却しその通知はその頃原告に到達した。

しかしながら原告は前述のように旅館業とパチンコ営業を兼業しており、旅館業における所得金額は被告認定のとおり四八五、〇〇〇円であるが、パチンコ営業においては同年度に二六七、九七六円の欠損額があつたので、これを旅館業における所得金額より差引いた二一七、〇二四円が同年度における原告の総所得金額となるからこれを基準として課税すべきところ、昭和二十八年度においては兼業を認めて課税したに拘らず、同二十九年度においてはパチンコ営業を原告の事業と認めず、右旅館業における右所得金額のみを対象としてなした本件更正法定は違法であるからその取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、尚パチンコ営業は原告が妻沈点岳をして訴外王国明より賃借した家屋において営業せしめているものであつて、偶々該営業の許可を得るに際して地主が右家屋家敷地の転貸借を承諾しなかつたのでやむなく訴外王国明を営業名義人とし、沈点岳を管理人としたものであつて金銭上の出納等営業上の一切の実権は原告に属するのであつて原告自身の営業であると附陳し、

立証として甲第一号証の一乃至十二、同第二号証同第三号証の一、二、同第四号証を提出し、証人明上完己同王国明の証言を援用し、乙第一、二、四号証の成立を認め同第三号証は不知と述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張事実中原告が旅館業を営むこと、原告がその主張のとおりに確定申告をなし、被告が原告の主張どおりに更正決定をしてその通知をなし、原告がこれに対し再調査請求をしたが理由がないとしてその棄却決定をして原告に通知し、原告は更に大阪国税局長に対し審査請求をしたが理由がないとして棄却せられ、その通知を原告が受けたこと、被告が原告の事業が旅館業のみと認めて更正決定をしたこと、原告の主張するパチンコ営業が訴外王国明名義でなされていることは認めるがその余の主張事実はこれを争う。原告の営業は旅館業だけであつて、パチンコ営業はその営業名義人である訴外王国明が経営しており原告の事業ではない。仮りにそれが原告の妻沈点岳の経営するところであつても原告の事業でないことは同断である。

原告は本件準備手続期日においてパチンコ営業は妻沈点岳の営業であると述べ、原告の営業でないことを自白したので被告においてこれを援用したところ、原告は第一回口頭弁論期日においてパチンコ営業は妻名義で実際は原告が営業しているものであると述べた。しかし、これは自白の撤回であるから異議がある。なお、原告の昭和二十九年度における右事業による総所得金額は四八五、〇〇〇円であると述べ、

立証として乙第一乃至四号証を提出し、証人原田運平、同内垣英次、同岡一雄、同竹内忠の証言を援用し、甲第三号証の二は不知、その他の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

原告が旅館業を営むこと、原告が被告に対し昭和二十九年度の総所得金額を四〇〇、〇〇〇円、所得税額を六一、〇五〇円とする確定申告をしたところ、被告は昭和三十年四月十九日付をもつて総所得金額を四八五、〇〇〇円、所得税額を九二、五〇〇円、過少申告加算税を一、五五〇円とする更正決定をし原告に通知したこと、原告が同年四月三十日被告に対し再調査の請求をなし、被告が同年六月十三日付で右再調査請求を理由なしとして棄却し、原告にその通知をしたこと、原告が同年六月二十七日大阪国税局長に対し審査の請求をしたが、右国税局長は昭和三十一年三月三十日付で原告の請求を理由なしとして棄却し同人にその旨通知したこと、被告が原告の事業が旅館業のみと認めて更正決定をしたこと、パチンコ営業が訴外王国明名義でなされていること、原告は旅館業によつて四八五、〇〇〇円の所得金額があつたこと、はいずれも当事者間に争がない。

まず、被告は右パチンコ営業は原告の営業でない旨の原告の自白があつたと主張するから判断するに、原告は本件準備手続期日において、右パチンコ営業は原告の妻沈点岳が王国明名義で経営した旨陳述しているけれども原告は第三国人であり、かつ法律にはいわゆる素人であるからその陳述は真意を表現したものとは認められないから原告が第一回口頭弁論期日において被告主張の如く陳述したことは自白の撤回ということはできない。

そこで昭和二十九年度における右パチンコ営業の収益が何人に帰属するか、即ち右パチンコ営業の営業主は誰であるかについて判断する。成立に争のない甲第一号証の一ないし一二、第二号証、乙第二号証、証人王国明の証言を総合すると、神戸市兵庫区上沢通一丁目九番地のパチンコ店「マドロス」は営業名義人を王国明管理人沈点岳として所轄警察署に届出られ又昭和二十八年、同二十九年の右パチンコ営業の入場税は沈点岳名義で納められていることが認められるから、一応原告は右パチンコ営業の営業主でないと認めないわけにはいかない。原告は自己が右営業主であると主張するけれども証人明上克己の証言ではこれを認めるに足りず、又成立に争のない甲第四号証及び乙第四号証には原告が昭和二十九年四月二十五日にパチンコ兼業を廃止した旨の記載があるけれども証人岡一男の証言に徴すると右記載だけでは原告主張の事実を認めることができず、他に原告主張の右事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると結局旅館業のみを原告の事業と認め金四八五、〇〇〇円をその総所得金額と認定した本件更正決定にはいまだ原告主張のような違法を認めることができないから、原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上喜夫 裁判官 尾鼻輝次 裁判官 上井俊文)

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